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第28話 代官山の偶然

Penulis: 藤永ゆいか
last update Tanggal publikasi: 2026-08-02 20:00:00

あの夜、結局メッセージは送れなかった。何度も書いては消し、最後に送ったのは『今度、お茶でもどうですか』という短い一文だけだった。

黒瀬さんから返ってきたのは、『はい』の一言だけ。

それから一週間ほどして、私は代官山に来た。

仕事が一段落したものの、家にいる気分でもなかった。深夜に企画書を作り直したあの夜から、少し空気を変えたかったのかもしれない。

ただ歩いていたら路地の奥に古本屋の看板が見えて、吸い寄せられるように入ったのは、純粋な気まぐれだった。

店内は薄暗くて、本の紙とほこりの匂いがした。天井まで届く棚に、背表紙がぎっしり並んでいる。

文庫、単行本、写真集、洋書──ジャンルの境界がほとんどない、雑然とした並びが心地よかった。

週末の昼下がり、店内には数人のお客が本棚を眺めていた。

奥の棚に向かいながら、ふと目が止まった。

黒のカットソーにデニム。建築関係の棚の前に立って、本を開いている人。

──あれ。

思わず、二度見した。<

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